20世紀のドグマ(1)
「買ってはいけない Part2」の中に書いてはいないが、著者らが前提としている考え方がある。これは著者には自明の理であるので、アプリオリに文中に出てくる。この前提を持っていない私には時々難解な部分が出てきた。この前提を理解することで、「買ってはいけない Part2」の理解を深めより楽しむことができると考える。
前提は2種類ある。
一つは企業に関する根本的な考え方で、それは次のようなものである。
- (大)企業は、消費者を危険にさらすような悪い物を作る。
- XXX(具体的な商品名)は(大)企業が作った物である。
- したがって、XXXは悪い物(危険)である。
後は、それらしい理由を付けてXXXは悪い物(危険)であるから”買ってはいけない”と言えばよいのである。「科学的な装いを凝らしてはいるが、結局は『好き嫌い』にすぎないのだ」(1)と言われてもしかたがない。
いつの時代も企業の不祥事が報道されるのでこのような考え方を持っているのかもしれないが、企業や事業部、時代も色々であるから、このように一般化してしまうのは危険であるような気がする。著者らが何故にこのような前提を持つようになったかはしらない。もっとも、著者らをこのように解釈することには異論があるかもしれない。
そして、もう一つの前提は、「買ってはいけない Part2」を貫く次の重要な命題(2)である。命題は4つある。
- 天然(自然)物=安全・良
化学物質(3)(人工合成物質)=危険・悪
農薬と化学肥料=危険・悪
- (食品)添加物=危険・悪
- 危険性のあるものはたとえ微量でも使ってはいけない
絶対に安全でなければならない。
- 遺伝子組み換え作物=危険・悪
番号は優先順位である。ただし、せっけん(4)とエタノール含有飲料は例外である。さらに、「電磁波は有害である」、(宗教的な理由からではないが)「肉食(牛肉とたぶん豚肉などの4つ足動物の肉)はいけない」というドグマもあるらしい。
これらは4つ目の命題を除いて説明するまでもないほど、非常にわかりやすいし印象的で覚えやすい。単純明快な命題であり世間に広がりやすい。すでにある程度広まっている。さらに直感的に正しいように感じられる。聴衆の前でこれらのことを声高らかに演説できたらさぞ気持ちの良いことだろう。喧嘩 討論ならば、命題が単純な故に支持されやすく、声を大きくして主張すれば必ず勝てるだろう。このような命題を持っている著者らがうらやましいような気がする。もっとも、うらやましいとは思わないが。
これらの命題は科学的に正しくはない。いわるゆ俗説である。本ホームページではこれら4つの命題を、「20世紀のドグマ」と称する。ドグマとは、「真実らしく見えるけれども間違っている考え方」である。”20世紀”と修飾しているのは、ドグマの生まれた時期が20世紀であることと、旧世紀のつまり時代遅れのという意味を持たせたいからである。
(1)「トンデモ本の世界R」 と学会編、太田出版、2001年、p25
(2)厳密に言えば3番目のドグマは命題ではない。
(3)「買ってはいけない Part2」で”化学物質”というのは、人工的に合成した物質の意味。技術系、特に化学関係の人は注意して欲しい。まあ、辞書で化学物質を引いても「人工的に合成された物質」とあるので間違いではないが私には違和感がある。
(4)著者らの念頭にある「せっけん」とは、脂肪酸のナトリウム塩のことをいう。薬局やスーパーマーケットで売っている石鹸でも、脂肪酸のナトリウム塩でないものもある。これらは合成界面活性剤であり、この「せっけん」とは区別される。「せっけん」は合成界面活性剤の分類には入らないらしい。